こんにちは、井畑です。
起業家の思考をクリアにする経済学入門、今回は経済学で経済活動を分析する時に使う基本の思考モデルをご紹介します。
※この記事は「スティグリッツミクロ経済学」に準拠しております。
基本的経済モデル
「企業は顧客を獲得するために他の企業と競争をし、顧客が望む商品を可能な限り低価格で提供する。」という経済の原則は、みなさんにとっても馴染みの深いものですよね?
競争があるので、販売される商品の数も限定され、さらにそこには相応の価格が付けられます。この「消費者」「企業」「市場」からなる競争の関係を基本的競争モデルと呼びます。

基本的競争モデル
基本的競争モデルは次の3つの仮説から成り立っています。
- 消費者は合理的であるという仮説
- 企業は利潤最大化を行うという仮説
- 相互に影響し合う市場が極めて競争的であるという仮説
この仮説のベースには「個人や企業が持つ資本には限りがある(資本には希少性がある)ので、それらを分配する選択をする際、費用と便益を比較検討しなければならない」=「合理的選択をしないといけない」という発想があります。
完全競争
また、「市場には多数の売り手と買い手が存在し、すべての人が同じ財を売ったり買ったりする市場」を想定しています。そのため、ある企業が現行価格より少しでも高い値段を付けても売れず、また「現行価格=最低価格」になっているという理由で、消費者は現行価格より少しでも低い価格では買うことが出来ません。
このような市場の状態を完全競争と呼びます。完全競争下では売り手も買い手も、市場価格に影響を与える事が出来ないので、価格受容者(プライステイカ−)と呼ばれます。
基本競争モデルは役に立つのか?
基本経済モデルや完全競争の定義を見ると、「こんなのは実際の経済とは全然違う。役に立たない。」と感じる方がほとんどだと思います。
実際に、「消費者は合理的である」という考えは実際の市場で成り立たない場合が多数存在し、その消費者の不合理な行動を研究する「行動経済学」という学問もあります。
ですが、このモデルが現実の経済に当てはまる場合も多く、当てはまる場合が多いので、学問として確立しているのも事実です。
なので起業家の皆様は「基本競争モデル」は「一番いい条件が揃った時のベースとなる」くらいに捉えておいてください。逆にこの「基本競争モデル」が頭に入った状態だと、応用的な要素をとても捉えやすくなります。
インセンティブと情報:価格・所有権・利潤
では、逆になぜ「基本競争モデル」は実際の市場に当てはまらない場合があるのでしょうか?
基本競争モデルが成り立つにはさらに以下の前提条件があります。
市場経済が効率的に機能するためには、企業や個人は十分な情報を持ち、かつ利用可能な情報に基づき合理的に行動するというインセンティブを持つ。
市場が大きく、かつ選択するために必要な情報が十分に与えられている場合は基本競争モデルが成り立ちます。ですが、特に個人起業家や個人事業主の皆様が想像する「規模の小さな市場」では、選択のための情報が不十分な場合があります。
起業家のみなさんはこれを知っておくだけでも一歩リードですよね。「自分の市場にとって顧客が必要としている情報は何か?そしてそれは十分に提供されているか?」を分析し、もし提供されていなかったら自分がその情報を提供すれば市場を独占することが出来ます。
では、この「情報」とは具体的に何なのかというと、「価格」「利潤」「所有権」についての情報です。
個人や起業はその製品を購入した時に得られる「利潤」とその製品を購入した時に支払う「価格」を検討して、交換の後どのくらいの「利潤」を「所有」出来るかどうかを検討します。
所有権には
- 所有者が自分の財産を自由に使う権利
- 自分の財産を自由に売る権利
の2つが含まれている。この2つの要素を持つ財産の事を「私有財産」と呼ぶ。
この所有権の2つの特性のおかげで、企業にせよ個人にせよ、自分の財産を正しく運用しようとするインセンティブが働きます。例えば自分の土地を利用する所有者は、正しく運用すれば利潤が得られますが、間違った運用をすると損失が出ますよね。
分配面での不平等
「価格」「利潤」「所有権」の3つの要素と、それによってもたらされるインセンティブによって、「財」はその財を望むために最も多くのお金を払ってもいいと考え、さらに支払い能力のある人の手に渡るようになっています。(この仕組によって完全競争が成り立つ)
このインセンティブは市場に効率性をもたらしますが、同時に分配の不平等というコストももたらします。一部の個人の所得が非常に大きくなり、経済全体での不平等感に繋がる可能性も生まれます。
ですが、この不平等感が市場の効率性をより加速させています。報酬と業績を結びつけることによって、成功に対してのインセンティブを強化し、より高い所得を得られるよう頑張りますよね。
このインセンティブと分配の不平等性の関係を「インセンティブ・平等のトレードオフ」と呼びます。
所有権が侵害された場合
重要なのは、所有権が確立している場合に、インセンティブが働いているという事実です。
なので、もし所有権が明確でなかった場合、インセンティブも適切に働かず、市場の効率性も低下します。
よって、適切なインセンティブを提供することは基本的な経済問題なんですね。
現代経済におけるインセンティブをまとめると以下のようになります。
- 利潤:企業に、個人が望むものを生産しようというインセンティブを与える
- 賃金:個人に、働こうとするインセンティブを与える
- 所有権:投資や貯蓄だけでなく、財産を適切な方法で運用しようとするインセンティブ
割当
完全競争は「「財」はその財を望むために最も多くのお金を払ってもいいと考え、さらに支払い能力のある人の手に渡る。」という前提のもと成り立っていましたが、実際の財の分配が必ずしも「財」のみによって調整されている訳ではないですよね。
例えば行列。2012年くらいまでは新型iPhoneの行列凄かったですよね。どんなにiPhoneに対してお金を払う気持ちがあっても、発売当日は行列に並んだ順にiPhoneという「財」が分配されます。
病院なんかは「財」の有無ではなく「行列に早く並んだ順」がいいと多くの人が思っています。(時間は財に比べて公平性があると感じる人が多いようです。)
他にもくじ引きや抽選なんかも財によらない分配の方法ですね。
機会集合とトレードオフ
基本競争モデルに基づいた個人や企業の合理的な選択を分析するための第一歩は、利用可能な選択肢を集めた「機会集合」を明確にする必要があります。
個人でも企業でも、選択肢は無限にある訳ではなく、様々な制限の下に選択肢が限られる。選択肢の数を制限する要素のことを制約と呼びます。
個人の選択に関する制約:「時間」と「お金」
個人の選択を制限する代表的な制約は「時間と「お金」であり、お金で制限される場合を「予算制約」、時間で制約される場合を「時間制約」と呼びます。
企業の選択に関する制約:生産可能性
土地・労働力及他の要素が固定されている場合、企業もしくは社会が生産出来る財の送料を生産可能性と呼びます。
企業が単純に2つの製品しか生産していなかった場合、生産量をグラフにすると以下のようになります。

片方の生産量を100に近づけるともう片方は0に近づいてくる。生産量が直線ではなく曲線となっているのは、収益逓減が働くからです。
生産は基本的に「投資を増やすと生産量も増える」が、実際には増やした投資が上手く機能せず、投資に対して生産量(収益)の増え方が低下すること。
(例)従業員を増やしたらコミュニケーションの問題で効率が下がった。/材料が大量に届いたが機会の数が限られているので生産が追いつかない。
企業はこの2つの製品の「どちら」を「どのくらい」生産するかのトレードオフを迫られます。企業が目指すべきは、グラフの曲線上(生産可能性曲線)、つまり生産可能性の限界に位置することです。
しかし、実際には生産可能性曲線の内側で生産を行なっている場合があります。誤って不適切な資源利用をしていたり、投資に失敗している場合、この状態になってしまうんです。
まとめ
- 合理的で利己主義的な消費者
- 合理的で利潤最大化を図る企業
- 市場参加者がプライステイカー的な行動を取る競争市場
機会集合を特定する
トレードオフを明確にする