捨てることは重要な仕事。「未来の可能性」を守ることが「今やるべきこと」を犠牲にする。

井畑です。

二兎を追ってしまう人、もしかしたら将来使うかもしれないとものを捨てられない人、あれもこれもに手を出しすぎて仕事の効率が落ちている人。思い当たる節はありませんか?

何かを選んで何かを捨てるという決断は重要な仕事です。

もしその重要な仕事を放棄した場合、「未来の可能性」は守れるかもしれませんが、代わりに「今やるべきこと」を犠牲にしています。それは、非常に効率の悪いことです。

未来の可能性を捨てられないケース

まずは、よくある「未来の可能性を捨てられないケース」をご紹介します。

実際に当てはまる人も多いのではないでしょうか?

ケース1:パソコンのスペック

「今はOfficeとメールの返信とユーチューブ見ることにしか使わないから10万円のパソコンを買おうと思ってたけど、もしかしたら将来自分も動画編集してユーチューブ投稿するかもしれないから、15万円のパソコンを買っておこう〜」

ケース2:子供の習い事

「何に興味を持つか分からないから、出来るだけ多くの習い事をさせておこう〜」

ケース3:顧客の絞り込み

「あっちの顧客もこっちの顧客も、自分のサービスを必要としてくれる気がするからどっちの顧客にも対応できるようにあれもこれも文書に追加しておこう〜」

上の3つのケースは全部、「○○かもしれないから〜」という、「不確定な将来の可能性」を守るために「全部残しておく」という選択をしています。

ビジネスでは「選択と集中」という名言があるくらい、持っているリソースを集中して分配することが求められているのに、どうしてみんな「捨てる」という選択を出来ないのでしょうか?

なぜ捨てられないのか?〜所有欲と選択の自由〜

捨てるという決断が出来ない人は「機会損失」に対して特に強いストレスを感じ、「選択の自由」に対しての執着が強い人です。この2つへの思いが強いと不合理な判断をするようになります。

機会損失へのストレス

人間は、何かを所有すると、所有する前よりもそれを高く評価する傾向があります

例えばライブのチケット。抽選で当たる人と外れる人が出てくるわけですが、当選結果が出るまでは同じ属性の人ですよね?

ですが、当選結果が出たあとに、外れた人には「いくらならチケットを買うか?」、当たった人には「いくらならチケットを売るか?」という」質問をした実験があります。

結果、売る側(チケットを持っている人)は、買う側(チケットを持っていない人)に比べて平均14倍も高い値段を提示しました。

人間は一度自分のものになると、そのものを高く評価します。そして、それは「モノ」だけにとどまらず「思想」や「経験」にも及びます。

だから、自分が手に入れることが出来たはずの機会を失うことに対してストレスを感じるようになるんです。

損失回避

人は、利益と損失が同じくらいだった場合には、利益から得られる満足度よりも損失から受けるストレスのほうが強くなるという傾向を「損失回避」といいます。

例えば、一万円落として、その後一万円を拾ったとしても「一万円を落とした」というストレスのほうが強く印象に残ります。(「あぁ〜、あそこで一万円落とさなきゃ純粋に1万円儲けたことになるのに、これでプラマイゼロだ〜」という感じです。)

選択の自由への執着

人間は選択の自由がない状態に耐えられません。

こんな実験があります。

ボタンの実験
  • 3つのボタンがあり、それぞれ押すとお金がもらえる。但し、最初の一回ではお金はもらえず、2回以上連続でボタンを押すことが条件。
  • ボタンを押して貰えるお金はランダムだが、もらえるお金の平均値はボタンによって異なる。(効率のいいボタンと効率の悪いボタンがある。)
  • ボタンは、10回以上押されないとそれ以降は押せなくなる。(Aを5回押して、その後Bを5回押すと、Cはそれ以降は押せなくなる。)
  • ボタンは100回まで押すことが出来る。

ポイント:ボタンは最初の一回はお金をもらえないため、一つのボタンを押し続けることが一番お金を獲得する機会が増える。

実験に対する予想は「最初の15回でボタンの平均値を確かめ、以降は一番平均値の高かったボタンを押し続ける」というものでした。

結果は非常に不合理。多くの参加者がすべてのボタンが消えないようにボタンを押していきました。(お金を獲得する回数は80回程度まで減った。)

なぜ不合理な判断をしたのか?

ちょっと考えれば、一つのボタンを押し続けたほうが効率がいいのがわかります。

ですが、この実験のポイントは、それぞれのボタンを押すことでもらえる金額が「ランダム」であるということ。なので、例えば全てのボタンを5回ずつをして平均値をとっても、「もしかしたらこの5回はたまたま金額が低い(あるいは高い)だけで、本当はこのボタンが一番お得かもしれない……」と考えてしまい、ボタンを捨てる選択が出来なくなります。

最初に出した3つの例もすべて、実験と同じように「どの選択が一番いいか分からないから、出来るだけ多くの選択が出来るようにしておきたい……」という心理です。

特にこの執着での失敗が多いのは、ビジネス上での人間関係です。なんのためにやるのか分からないお願いをされたときに、「ここで関係を切ってしまうのはなんか嫌〜」という感覚で、ズルズルとお願いを受けてしまった経験はありませんか?(びっくりするほど自分のことしか考えていない人はたくさんいて、そういう人は「なんのためにやるのか分からない」ようなお願いを平気でしてきます。)

「未来の可能性」と「今やるべきこと」はトレードオフ

上で紹介した2つの要素が働くので、脳は「未来の可能性」を出来るだけ残して置きたいと考えます。そうすれば「何かを失った」と感じることも避けられるし、「選択の自由」も得られます。

でも、ここで絶対に忘れてはいけないのは、「未来の可能性」を捨てないということは、「今やるべきこと」を捨てているということです。

例えば一番最初の例のケース1ではパソコンに余分にかけた5万円で、今出来た何かを失いました。ケース2では、子どもの習い事を増やすことで、家族や友達と過ごす時間や、一つのことに打ち込む時間を犠牲にしています。ケース3では、一つのターゲットに集中して仕事を出来たはずの時間や労力を犠牲にしています。

こんなふうに、リソースが限られているときには二兎を追うことは絶対に出来ません。必ず何かを犠牲にしているんです。

でも、同じように犠牲を出しているのに、どうして「未来の可能性」は出来るだけ捨てないように扱われ、その代わり「今やるべきこと」は見向きもされず犠牲になっていくのでしょうか?

「未来の可能性」を切れない人は「今やるべきこと」が見えていない

超シンプルなんですが、「未来の可能性」を切れない本当の理由は「今やるべきこと」が見えていないことです。

どんなに人間の脳が「未来の可能性」を優先しようとしても、「今やるべきこと」が明確に見えていて、それをやらなきゃいけないと思っていれば正しい判断が出来ます。

例えばケース1では5万円を追加投資してしまいましたが、「パソコンには10万円まで、残り5万円はスポーツ用品を買う」とか、明確に使いみちが決まっていれば不必要に未来の可能性を残しておくこともありません。

ケース2でも「子どもが自由に過ごす時間や一つのことに打ち込む時間が大切」だと分かっていれば、不必要に習い事を増やすこともありません。

ケース3では、本当に届けたい顧客が明確なら、ターゲットを絞り込むことが出来るはずです。

こんなふうに、「今やるべきこと」がよく分かっていないと、脳の誘惑にかられて「不確定な将来の可能性」を捨てられなくなります。

※ちなみに、自信をもって将来に投資をするというのは正しい判断です。例えば「今はユーチューブ見るだけだけど、今後のビジネスを拡大していく上でユーチューブは絶対に必要だから、そのための機材を揃える」というのは重要な判断です。それは「未来に向けての投資」であり、現在とのトレードオフを明確に意識しているので合理的な判断だといえます。

捨てることは、仕事です。

トレードオフはビジネスにおいて非常に重要な要素です。限られたリソースを最大限活かすことがビジネスでの成功ですからね。

だから、捨てるっていう決断をすることは、経営者にとって最重要の仕事なんです。ちゃんと捨ててください。仕事放棄しないでください。

「未来の可能性」を守りたがる人は、何かに夢中になってない人

そして、僕が一番重要だと思うのは、「未来の可能性」を守りたがる人って、今何かに夢中になってない人なんですよね。

今なにかに夢中であれば、「今やるべきこと」なんて考えなくても出てくるんですよ。それがないから「未来の可能性」にすがってしまう。今を生きてない。

特に自分たちのアイデアやパフォーマンスが仕事の成果に直結するような仕事では、「夢中になっていない状態」って、ウルトラ非効率なんですよね。

自分が「未来の可能性」を切れてないなって思ったら、それは結構やばい信号。今の自分の仕事を見直すタイミングなのかもしれません。

「未来の可能性」にすがることく、夢中になれる仕事を作って「今を生きる」ことにエネルギーを注ぎましょう。

現場からは以上です。

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