井畑です。
無料サービスを提供したことはありますか?私はあります。絶賛提供中です。
//key-performance.jp/kp-web/
無料サービスは提供する方も気が楽なんですよね。特に集客がうまくいってない初期の頃なんかは「無料ならきっと使ってくれるから、そこから顧客を増やしていこう!」なんて考える人も多いです。
でも、無料から有料に移行するときに顧客の心で起こる変化をしっかり理解して置かないと、下手したら顧客から「裏切られた」と感じられてしまうこともあります。
無料は社会規範、有料は市場規範
こんな実験があります。
キャラメルが無料になると、1セントの時に比べて購入する人数は増えましたが、一人あたりの購入個数は減りました。
これ、経済学的には理に適わない動きなんです。
需要の第一法則と第二法則
普通、値段が下がれば下がるほど、その商品を変える人が増えるので、需要が増えます。Amazonのサイバーマンデーセールなんかは商品の奪い合いですよね?
この「市場参加者が増加するため需要が増加する」ことを、「需要の第一法則」といいます。
そして、商品の値段が下がれば下がるほど一人あたりの購入量が増えます。
「一人あたりの購入量が増えることで需要が増加する」ことを「需要の第二法則」といいます。
普通の経済学ではこの2つの需要法則が基本になっています。ここで、先程の結果を思い出して見てください。
キャラメルを求める学生の数は、第一法則に沿って増加しました。ここまでは経済学の法則通りです。
でも、一人あたりの購入量を見ると無料は1セントの三分の一以下になっています。需要の第二法則が働いていてば1セントのときよりも無料のときの方が購入量は増えるはずですが、実際には逆の結果になりました。
需要の第二法則は無料の場合には当てはまらないという結果です。
金銭が絡まないやり取りは社会規範。
以前、市場規範と社会規範についての記事を書きました。
//key-performance.jp/relationships-and-money/
金銭が絡む関係性のときは「市場規範」が適用されるため、購入者は自分の空腹感や好みによって購入量を決定しました。
ですが、金銭が絡まない取引で適用されるのは「社会規範」です。この実験では、社会規範が適用されると、利己追求をせず、他者の幸福感を気にすることが分かりました。
無料→有料は規範が変わる瞬間
キャンペーンなどで商品・サービスを「無料」で提供している場合、こちらは無料を「自社の売上増進のためのツール」として捉えているので、顧客との関わり方も「市場規範」を適用しています。
しかし、お客様はあなたと「社会規範」を適用して関わっている場合が多いです。
無料から有料に移行するときには顧客は「社会規範」として捉えていた関係を「市場規範」で捉え直すという変化が起こります。
社会規範→市場規範へ
無料から有料に変わるとき、つまりは金銭のやり取りが発生すると、関係性に「市場規範」を適用するようになります。
「市場規範」を適用した場合、自分の利益を最大限追求し、提供者や他者のことは考えなくなる傾向が強くなります。「お金払ってるんだからやってもらって当然」って思ったことはないですか?あれです。
環境問題でも同じようなことが起こっています。
みなさんキャップ・アンド・トレードはご存知でしょうか?
政府がCO2などの温室効果ガスの排出量を各企業や団体に「排出枠」として配分し、「排出枠」は企業間で売り買いしていいというルール。
キャップ・アンド・トレードでは、環境問題に値段を付けることになります。そうすると当事者は環境問題を「市場規範」として捉えることになり、結果として自社の利益を最大限追求することに繋がっています。
僕たちと顧客の関係性に話を戻しましょう。社会規範が市場規範に変化するときに起こるマイナスはまだあります。
お客様が自己都合だけで動くようになるだけでなく、今まで社会規範の範疇で受けられていたサービスに対してお金を請求されるようになるので、「こんなことでお金を要求するなんて………」とこちらがお客様の期待を裏切ったように感じる方もいらっしゃいます。
では、無料で提供したサービスはどうやってその後の自社サービスに結びつければいいのでしょうか?
行動による返報がいいらしい
目には目を、歯には歯を、サービスにはサービスを。物々交換の仕組みよろしく、相手にお金以外の何か「行動」で対価を求める場合は「社会規範」と「市場規範」のどちらが適用されるのでしょうか?
こんな実験があります。
チョコレートを「有料」「無料」「労力」の3つの条件に分けて配布(販売)した。
〜有料条件〜
1個1セントでチョコを配布した場合。
→一人平均30個のチョコを購入した。
〜無料条件〜
無料でチョコを配布した場合。
→1人平均1.5個のチョコレートを手にした。
〜労力条件〜
新聞を渡し、「sが二回続く単語」を見つける毎に一個のチョコレートを渡した。(「sが二回続く単語」はすごく見つけやすくしてある)
→1人平均8.6個のチョコレートを手にした。
この実験からは、「労力」を提供することによって見返りをもらう関係性は、「無料」と「有料」の中間に落ち着くことが推察できます。
無料ほど社会規範によりはしないですが、他者との関係性を慮った結果となりました。(チョコを取りすぎると相手にも悪いし、自分以外の人の取り分が減ると考えた結果。)
つまり、社会規範を維持するためには「お金」より「労力」による対価、いわゆる「返報」を行ってもらったほうがいいです。
なので、自分たちのサービスに対して「労力」を払ってもらい、しかもその「労力」が「お金」以上に自分たちにとっての価値になるような設計をする必要があります。
行動による返報の例1:レビューを書いてもらう
一番わかり易いのは自分の商品を使ってどうだったかという「お客様の声」を書いてもらうことです。特に起業の初期段階では「信頼」を集めることが最重要なので、レビューは非常に価値があるはず。
しかも、「返報性の法則」といって何かしてもらったら何かお返ししないといけないという心理が人間には働くので、きっといいことしか書かないはずです笑
行動による返報の例1:相手のサービスと交換
例えば僕たちだったら、レンタルスペースと共催でイベントをやるときは「集客をこっちでやるから代わりに会場代おまけして!」みたいな交渉をします。
自分たちが出来ることと相手が出来ることを物々交換ようなイメージですね。
この手法は相手がまだビジネスを初めたばかりで、自分の商品・サービスには金額的に手が届かないようなときに、相手に気を使わせることなく自社サービスを体験してもらえるのでオススメです。
まとめ:無料は意外とデリケート
いかがでしょうか?無料のサービスって簡単に提供しがちですが、顧客の心に起こる変化をしっかり理解しておかないと思わぬ落とし穴にハマることがあります。
お互い気持ち良い関係を続けるためにも、ぜひ「無料のあとの設計」をイメージしてみてください!
MITの学生センターに仮説のお菓子売り場を設けての実験
シナリオ1と2を交互に切り替えながら実験
〜シナリオ1〜
キャラメルが一つ1セントだった場合
→58人の学生が購入、一人あたり3.5個
〜シナリオ2〜
キャラメルが無料だった場合
→207人の学生が購入、一人あたり1.1個