井畑です。
「今日はもう疲れたから、ブログを書くのは明日にしよう。」
「クレジットカードを使えば支払いは後でいいからとりあえず買っちゃおう。」
「夏休みの宿題はたくさん出てるけど、まだ夏休みはあと10日もあるから、明日やろ〜」
こんなことを考えた経験はありませんか?私はあります。とてもあります。
僕たちの脳が何かを判断するときの原則は、「いいことは先、辛いことはあと!」です。でもこれだと後々自分が大変な思いをするのは経験済みですよね。
そんな先延ばしの被害をこれ以上増やさないための方法をご紹介します。
報酬と罰則には遠近法が働く。
先延ばしをイメージしやすくするためのエピソードをご紹介します。
例えば、「1年後に10000円もらうのと1年と1日後に11000円もらうのだったらどっちがいい?」と聞かれると、みんな一日多く待ってお金をより多くもらいます。ですが、「今日1万円もらうのと明日11000円もらうのだったらどっちがいい?」と聞くと多くの人が「今日もらう」方を選びます。
どちらも「一日待てば1000円多くもらえる」という条件なのにです。なんで一年後のことは一日待てるのに、目先の今日明日のことだと1日を待つことができなくなるのでしょうか?
僕たちの頭には、報酬と欲求に関する遠近法が存在します。
遠近法はご存知ですよね?近くのものは大きく、遠くのものは小さく見えるあれです。
僕たちの頭は基本的に「報酬(いいこと)はもっと欲しい、罰則(嫌なこと)は出来るだけやりたくない」という思考方法なのですが、報酬も罰則も、近ければ近いほど大きく見え、遠ければ遠いほど小さく感じられます。
こんなふうに、「目の前の報酬を過大評価し、将来の報酬や罰則を過小評価してしまうこと」を、行動経済学では「双曲割引」と呼びます。
最初の例で言えば、「今日はもう疲れたから、ブログを書くのは明日にしよう。」というのは、ブログを書くことで得られる将来の報酬(ブログという集客ツールや自分の脳力の向上)よりも、今の休憩という目先の報酬のほうが魅力的に見えます。
「クレジットカードを使えば支払いは後でいいからとりあえず買っちゃおう。」という例も、将来の自分が代金を支払わなければいけないという将来の罰則よりも、今すぐ商品が手に入るという目の前の報酬のほうが魅力的に見えます。クレジットカードの返済に苦労している人の量を見れば、この法則が正しい事が分かりますね。
では、どうやったらこの「双曲割引」の効果をうまくコントロールして、先延ばしを防げるでしょうか?
マシュマロ・テストから見る「双曲割引」のコントロール方法
「双曲割引」は私達の脳の仕組みそのものといえます。だから、この仕組をコントロールするためには出来るだけ脳に忠実に動いてくれる人たちの実験結果が必要です。
マシュマロ・テスト
心理学者ウォルター・ミシェルが行った、有名な「マシュマロ・テスト」という実験があります。
この結果は園児の将来の予想にも役立ちました。
実験に参加した園児たちのその後の人生を追跡調査した結果、待てた秒数が長い子ほど、SAT(日本でいうセンター試験)の点数が良くなるということが分かりました。
15分待つことができた子どもは、30秒で脱落した子どもたちに比べて、SATの成績が210点も高かったのです。
その他にも以下のような特徴が見られました。
①仲間や教師から好かれる
②より高級の職業についた
③中年になっても太りにくかった
我慢できる園児とそうでない園児の差は何か?
我慢できた園児と、そうでない園児の違いとはなんでしょうか?
もし生まれ持った才能であれば、僕たちに待っているのは絶望しかありません。
ですが、この能力は先天的・遺伝的なものではないことが分かって来ました。安心してください。もし今先延ばしにする癖がある人も、それをちゃんと克服することが出来ます。
先延ばしを回避するための要素とは?
まずは、マシュマロ・テストをもう少し詳しく分析しましょう。マシュマロ・テストは「どんな環境なら園児の待てる時間が伸びるか」を分析するために色々なバリエーションがあります。
- 本物のマシュマロではなく、プロジェクターでマシュマロを写したときには2倍の時間待てるようになった。
- マシュマロをトレイで隠すと、待てなかった子どもも10倍以上の時間を待てるようになった。
誘惑される回数が多ければ多いほど、誘惑に負けてしまう。
これらの実験を踏まえ、ウォルター・ミシェルらがもう一度オリジナルのマシュマロ・テストを分析した結果、面白い事が分かりました。
マシュマロ・テストで我慢できずすぐにマシュマロを食べてしまった子は、マシュマロをじーっと見つめていたり、ちょっと触ってみたり、かじるマネをしたり、手についた粉をなめたり。ずーっとマシュマロの事を考えて時間を過ごしました。
反対に、我慢できた子はピアノを引くマネをしたり、歌を歌ったりと、マシュマロから意識を離して待ち時間を過ごしていました。
ここから見える結論はすごく単純。イメージする回数が多ければ多いほど、誘惑の回数も多くなり、誘惑の回数が多ければ多いほど、誘惑に負ける確率も高くなりました。
報酬と罰則には遠近法が働く理由は、イメージのしやすさ。
イメージをすればするほど誘惑に負けやすくなるとしたら、報酬と罰則には遠近法が働くのも納得がいきます。
今の自分に近ければ近いほど、より報酬は具体的にイメージしやすくなります。一年後に100万円手に入れている自分より、明日100万円手に入れる自分の方が、より具体的にイメージ出来るしワクワクしますよね。
最初の例でいうと、「ブログを頑張って書き続けたことの報酬のイメージ」よりも「今すぐ休んで楽になるイメージ」のほうが簡単に持てます。
「将来の自分にお金を支払わせるイメージ」よりも「今すぐ商品を手に入れるイメージ」のほうが強くイメージ出来てしまいます。
イメージがリアルであればあるほど、脳が誘惑される回数も増えていきます。強くイメージ出来る直近の報酬と、ぼんやりとしかイメージできない未来の報酬や罰則。どっちが勝つかは明白ですよね?
あとは欲求に従って先延ばしにするコースまっしぐらです。
先延ばし改善の鍵は「習慣化」
「双曲割引」による先延ばしを改善する方法として、「大きな時間軸で自分を見つめるようにする」とか「耐えること自体を喜びにする」というような解決法が紹介されていますが、はっきり言ってその方法で改善した方は僕のお客様の中では一人もいません。
正確には、短期的には頑張れるけど、すぐにもとの状態に戻ってしまいます。なんでかというと、上の2つの方法は、結局誘惑に負けないように「意志力」を使って判断をしようとしています。
ですが、意志力を使っている時点で脳に誘惑が浮かんでいます。誘惑と戦う回数が多ければ多いほど、いつかは負けが訪れます。
だから、本当に先延ばしをしないようにしようと思った時にもっとも重要なのは、「考えないけど体が勝手に必要な事をやっていた」という自動運転状態を作ること。つまりは「習慣化」が必要です。
習慣化さえできれば、そもそも「意思の力」なんか全く関係なく自分にとって必要な行動を取ることが出来ます。
このブログでも習慣化に関する記事を配信予定です。
ぜひみなさんもよい習慣を作り、先延ばしを乗り越えてください!
習慣が身につかないから三日坊主なのではなく、三日坊主だから習慣が身につかない。【習慣の科学】
【実験概要】
1960年代にスタンフォード大学のビング保育園で4・5歳の子どもを対象に行われた実験です。
まずマシュマロなどのお菓子を何種類か用意し、その中から子どもたち自身にいちばん食べたいものを選ばせます。
そのお菓子(今回はマシュマロを例に説明します)を園児が座るテーブルの上に1つ置くところから実験スタートです。
園児たちは次の2つの選択肢が与えられます。
①目の前のマシュマロ1個をすぐに食べる。
②マシュマロ1個を食べずに、研究者が戻るまでの最長20分間、1人で待てればマシュマロが2個もらえる。
マシュマロの近くにはベルが置いてあり、我慢できない時はそれを鳴らして、すぐに1個のマシュマロを食べてもいいというルールです。
【実験結果】
結果、待てた時間は平均6分、3分の2の園児が待てずに目の前にある1個のマシュマロを食べてしまいました。
残りの3分の1は待つことができ、2個のマシュマロを手にすることが出来ました。