どうもこんにちは!
起業茶屋®主催の 筧田 聡 です。
ある朝、自分のサイトに載せていた1枚の写真について、ドイツの著作権請求代行会社COPYTRACKから補償請求のメールが届きました。草原に立つ一本の木。何年も前に貼った、なんということもない写真です。提示されたのは「補償金を払う」か「事後ライセンスを買う」かの二択で、回答期限つきでした。
同じ請求を扱った日本語の記事は、すでにたくさんあります。ただ、そのほとんどはストック素材サイトの購入証明(請求書やダウンロード履歴)を出したらクローズされたという筋道でした。私の場合、使っていたのはフリー素材です。購入証明が最初から存在しない。その状態でどう反論したのかを、時系列で残しておきます。
結果は、反論の翌日に相手が請求を取り下げ、支払いはゼロ。3日で終わりました。
先に断っておくと、これは「無視すればいい」という話ではありません。むしろ逆で、無視しなかったから終わりました。
1. まず、相手が何をしている会社かを理解する
反論の前に、請求の構造を調べました。
COPYTRACKが公開している取引条件によれば、同社は権利者から請求権を取立ての目的で譲り受け、回収できた金額の45%を成功報酬として受け取ります。事後ライセンスでも、督促でも、裁判外でも、裁判でも同じ45%です。
つまり、画像検索で機械的にヒットを拾い、広く請求を送ること自体が、事業として合理的な設計になっている。これは「請求が不当だ」という意味ではありません。正当な請求も、精度の粗い請求も、同じ入口から届くという意味です。だから受け取った側は、まず自分の側の事実を確定させる必要があります。
同時に、同社の公式FAQには重要な一文があります。ライセンスの証明を提出すれば、確認でき次第すみやかにケースをクローズする——原文は “Upon verification, we will promptly close the case.”。争うための窓口は、ちゃんと用意されています。
2. 「フリー素材だから」では反論にならない
私が使っていたのはPixabayの素材でした。ここで「フリー素材サイトの画像だから問題ない」と返しても、まず通りません。根拠は感覚ではなく、条文の番号まで落とす必要があります。
Pixabayの現行利用規約(最終更新2024年11月18日)は、CC0コンテンツをこう定義しています。
CC0 Content on the Service is any content which lists a “Published date” prior to January 9, 2019.
(当サービス上のCC0コンテンツとは、「公開日」が2019年1月9日より前と表示されているすべてのコンテンツを指す)
Pixabayは2019年1月9日に独自ライセンスへ移行しましたが、それより前に公開された素材は現行の規約でもCC0のままだと明記されている。ここで効くのは「自分がいつダウンロードしたか」ではなく、「その素材がPixabay上でいつ公開されたか」です。私が使っていた写真は、2011年の公開でした。
そしてCC0は、後から取り消せません。Creative Commonsのリーガルコードは権利の放棄を “permanently, irrevocably and unconditionally”(恒久的・撤回不能・無条件に)と定め、公式FAQも「CC0は一方通行だ。一度適用したら、後から気を変えて著作権を主張し直すことはできない」と説明しています。
調べていて、ここで腑に落ちました。購入証明がないのは、購入という手続きがそもそも存在しない設計だからです。「購入日つきの証拠を出せ」という要求は、この種の素材については土台が成り立たない。私が返信で固定したのは、この一点だけでした。CC0かどうかは購入記録ではなく公開日で決まる、と。
3. ただし「フリー素材なら絶対に安全」ではない
ここは正確に書きます。同じPixabayの規約には、こうも書かれています。
Responsibility for determining whether permissions are needed always rests solely and exclusively with you.
(許諾が必要かどうかを判断する責任は、常にあなただけにある)
CC0の素材にも、写り込んだ商標や建築物、人物の肖像といった別の権利が残っていることがあります。さらに根本的なリスクとして、投稿者が他人の写真を無断でアップロードしていた場合、その本当の権利者の権利は消えていません。権限のない人が付けたCC0の表示は、本来の権利者を縛らないからです。Pixabay側も、許諾が取得されていることは保証しないと明示しています。
ですから、正しい言い方はこうなります。「Pixabayの画像だから合法」ではなく、「対象の画像の公開日が2019年1月9日より前であればPixabayの現行規約上もCC0であり、かつ本当の権利者が有効にCC0を適用していたことが前提」。私の事案でこの前提が崩れなかったのは事実ですが、どの事案でも自動的に成り立つ話ではありません。
4. 3日間の流れ
- 1日目——通知を受領。まず対象画像の出所を特定しました(素材の番号・著作者・公開日)。異議申立てのポータルから、入手経路とPixabayのページを添えて提出
- 2日目——相手から「購入日つきの証拠がなければ補償金か事後ライセンスを」という返信。ここが分かれ目でした。CC0の判定基準は購入記録ではなく公開日である旨を、規約の条文とともに提示。そのうえで、なお請求を維持するのであれば、この画像についての権利の根拠を示してほしいと、立証する側を相手に戻す内容で返しました
- 3日目——「提出された情報を検討した結果、クレームをクローズすることを決定した」との通知。終了
反論からクローズまで、1往復でした。文面は丁寧に書きましたが、譲歩はしていません。
5. 一番の違和感は、終わり方だった
この3日間で最も印象に残ったのは、結果ではなく終わり方です。
機械が検出して送ってきた請求に、こちらが根拠を返し、相手は「検討した結果、クローズします」の一言。謝罪もなければ、経緯の説明もありません。「お手数をおかけしました」の一行すらない。人に金銭を請求しておいて、根拠が崩れたら「そうですか、では終わりで」。
私の感覚では、このやり取りは日本の商習慣の中ではまず成り立ちません。請求する側は送る前に念入りに確かめるし、間違えていたら詫びる。言わなくても共有されている前提です。ところが相手は、その前提で動いていない。公開されている取引条件を読む限り、仕組みは「まず広く送る。証拠が返ってきたものは閉じる。返ってこなかったものから回収する」という設計です。成功報酬45%という構造の側に、一件ごとに謝意や説明を添える動機がないのです。
失礼な担当者に当たった、という話ではありません。担当者の人柄の問題にすると、対処を間違えます。相手は人ではなく手続きだと理解したほうが、こちらの返し方が決まります。
- 謝らない——「ご迷惑をおかけして」から書き始めるのは日本では礼儀ですが、この場面では侵害の自認と読まれかねません
- 怒らない——「失礼だ」「詐欺ではないか」という感情は、相手の手続きには何ひとつ作用しません
- 説明しすぎない——事情や善意を語るほど、争点がぼやけます。必要なのは条文と公開日だけでした
礼儀を欠くという意味ではないのです。文面は最後まで丁寧に書きました。ただ、関係を築く相手ではなく、手続きを処理する相手として扱う。この切り替えが、日本で育った感覚にとっては一番のハードルだと思います。
6. 残った教訓
1. 反論は条文の番号まで落とす。効いたのは主張の強さではなく、規約の該当条文と公開日という、相手が確認できる事実でした。
2. 証拠は、請求された画像と完全に同一のソースであること。初動でAIに相談したところ、別のサイトにある似た画像のURLを「証拠」として示されました。そのまま提出していたら、証拠が一致せず異議そのものが無効になっていたおそれがあります。AIの回答は、必ず元のページを自分の目で開いて突き合わせる。本件で一番ひやりとした場面です。
3. 素材の入手記録は「使うとき」に残す。どのサイトの、どの番号を、いつ入手したか。請求が来てから探すのと、手元にあるのとでは、対応の速度がまるで違います。今後はダウンロードの時点で、ページのPDF保存までを一組にします。
4. 無視という選択肢は取らない。日本の法律事務所が公開している解説は、「警告書を無視してはいけない」という方向でおおむね一致しています。ただし同じ解説が、警告が届いたこと自体は侵害の成立を意味せず、請求額が正当な額とも限らないとも指摘している。確認して、事実に基づいて回答する。放置でも即支払いでもない、三つ目の道が本筋です。
5. 終わった後も証拠を保全する。クローズの通知を含む全メール、素材のページ、規約の該当条文はPDFで保存しました。同じような請求が再び来たとき、同じ調査をやり直さずに済みます。
7. おわりに
あの朝、メールを開いた瞬間はさすがに嫌な気持ちになりました。それが3日後には、規約のページを2枚と、返信を1通書いただけで終わっている。気にしていた時間より、条文を1行読んだ時間のほうが効いたというのが、正直な感想です。
フリー素材は便利です。ただ私は今回、サイトから全部外しました。もう一度この朝を迎えるより、そのほうが早いと思ったからです。使い続けるなら、30秒だけ、どこから取ったかを残しておく。それだけで、いつか届くかもしれない朝のメールが、ただの事務手続きに変わります。
なお本記事は私自身の事案の記録であり、法的な助言ではありません。金額や事情によって最適な対応は変わります。判断に迷う場合は、著作権の実務に詳しい弁護士にご相談ください。
似たようなメールを受け取って、いま検索してこのページに辿り着いた方がいらっしゃいましたら、どんな素材で何を言われたのか、差し支えのない範囲で教えてください。事例が集まるほど、次の誰かが落ち着いて対処できるようになります。
ご意見・激励等ございましたら、気兼ねなくおっしゃってください!
ご覧いただきありがとうございました。
起業茶屋®の筧田がお送りしました。










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