100日後に死ぬワニのマーケティング|ブランドが先、集客は後

集客・発信/100日後に死ぬワニのマーケティング/ブランドが先、集客は後。日めくりカレンダーと、小さなお店の前に人が集まるイラスト

 

どうもこんにちは!
起業茶屋®主催の 筧田かけひだ 聡さとし です。

私は映画が好きで、一時期は1日に3本見ていたこともあります。ただ、見方が少し偏っています。物語より先に、「なぜ、みんなここにたどり着いたんだろう」が気になってしまうのです。

先日、起業の作戦会議室™で、ある相談者とその話になりました。挙がったのは、100日後に死ぬワニと『THE FIRST SLAM DUNK』。私はその場で「調べて、また後でブログにします」と言いました。今日はその約束を果たします。

調べてみると、会議で私が話した見立てと、当時の世間の受け止めと、実際の動き。この3つが少しずつずれていました。結論は、そのずれの中にありました。

先に書きます。ブランドが先、集客は後。ただし、その「後」には間が要ります。

 

100日後に死ぬワニは、どんな仕組みだったのか

100日後に死ぬワニは、きくちゆうきさんが2019年12月からTwitter(現X)で毎晩1話ずつ公開した4コマ漫画です。毎回、最後のコマに「死まであと◯日」と書かれていました。

結末を最初に言う。毎晩、同じ時刻に出す。あとは何も起きない日常を描く。仕組みはこれだけです。

結末を知っている読者は、何気ない場面でも「この先はない」という緊張を感じている状態です。研究者はこの仕組みを「カウント・ダウン型のメディア・イベント」と呼びました。読者は頼まれもせずに拡散行動を取り、作者のフォロワーは200万人を超えました。99日目から100日目だけで60万人以上増えたと、作者は語っています。最終回だけは、更新を20分遅らせたそうです。花見に遅れてくるワニと同じように、読者を待たせるために。

始まりは「100日後に死ぬワニって何だろう」という小さな引っかかりだけでした。そこから、よく映画までみんなをたどり着かせたものだと思います。マーケティングは、いかに人に乗っかってもらえるかだと思っています。

 

裏に企画者はいたのか

最終回の直後、書籍化、映画化、人気バンドとのコラボ、グッズの販売が立て続けに発表されました。文具メーカーのグッズのお知らせは、最終回の当夜21時に出ています。翌日から順次売り出す、という内容です。準備は連載中に進んでいたことになります。

世間はこれを「最初から仕組まれていた」と受け取りました。大手広告代理店の名前がトレンドに上がり、ステマだという声も出ました。

実際はどうだったのか。作者と関係者の説明、当時の取材をつなぐと、こうなります。

連載は、作者が個人で始めたものでした。始まって間もなく、グッズ化の相談で連絡してきた創業間もないベンチャーが、マネジメントとプロデュースの窓口になります。コラボ相手のバンド側との最初の打ち合わせは2月。名前の挙がった代理店は「当社は本件の仕掛け人のような立場ではない」と答え、関わったのはミュージックビデオの一部だけでした。ステマの根拠とされた記事の募集は、募集主が作者側とは無関係だと答え、宣伝アカウントの件もプロデュース側が否定しています。

企画者はいました。ただし、最初からではなく途中から。大手ではなくベンチャー。仕組まれていたのは物語ではなく、出口でした。

会議で私は「全部ができるまで、うまく騙しきった」と言いました。調べてみると、騙したというより、伏せていたと言うほうが近い。最終回に合わせたメディア展開は、100日目に「間に合わせた」ものだったと作者側は明かしています。伏せられていたのは物語ではなく、準備のほうです。

 

世間の受け止めと、実際の動きのずれ

世間と実際のずれは、2つありました。

1つ目は、規模の見積もりです。世間は「大手が何か月も前から仕込んだ」と見積もりました。実際は「途中から入った小さなチームが、100日目に間に合わせた」。こちらは世間の読み過ぎです。

2つ目は、時刻です。こちらは世間の受け止めが当たっていました。プロデュースを担った会社の代表は、最終話のあとに余韻がほしかったという声に同意しつつ、こう語っています。「あのタイミングで計画していた解禁タイミングを変更する決断をすることは今の僕の力では叶いませんでした」。

プロデュース側の気持ちは「めちゃくちゃ驚かせて、よろこんでもらおう」でした。読者が求めていたのは、驚きではなく、悼む時間でした。

読者はワニを、誰に頼まれたわけでもなく広めてきました。研究者の言葉を借りれば、草の根だと思っていたものが「人工芝」に見えた瞬間、怒りが生まれます。作者は後に「トラウマになりました」と振り返っています。翌年の映画は、公開前からレビューの荒らしや架空の予約に遭い、主要な映画館では4週間で上映を終えたと報じられています。

 

スラムダンクは、世代ごとに切り口を持っていた

2022年12月に公開された『THE FIRST SLAM DUNK』では、連載当時を知る世代が「もう一度見たい」と足を運び、若い世代も「これはすごい作品らしい」と理解して見に行きました。それぞれの立場にちゃんと刺さるものが作れているから、題名を言えば分かる映画になっている。ヒット作は、世代ごとの切り口を持っています。

私自身、もとの作品を見ていなかった側です。それでも楽しめました。切り口は、私の分まで用意されていたわけです。

そして、その切り口が効いたのは、土台があったからだと私は見ています。一時代を作った作品として、秀でていることはとうに確かめられていました。連載が終わって25年たった2021年8月にも、映画の予告を公開しただけでネットのトレンドを席巻したほどです。

 

隠れた宣伝は、通用しにくくなった

相談者からは「ワニはステルスマーケティングに当たるのか」とも聞かれました。

調べた範囲では、ワニは隠した広告ではありませんでした。隠していたのは広告ではなく、準備です。それでも、見えないところで準備されていたと知った読者は、仕組まれたと受け取りました。

その後、2023年10月1日から、広告であることが分からない形で出す宣伝(ステルスマーケティング)は景品表示法違反になると、消費者庁が示しています。規制の対象は広告主の事業者で、インフルエンサーなどに頼んで出してもらった場合も、問われるのは頼んだ側です。隠して他の人に宣伝させるのはダメ。広告だと分かる形で出すことが求められるようになったのです。

仕掛けを見せないまま人を乗せ、山場で一気に明かすやり方は、今から振り返るともう古典的なSNSのマーケティング手法です。時代としては終わっている、と私は考えています。SNSの使い方は人それぞれに変わり、いろんな世代が入ってきた。ファクトチェックも厳しくなり、裏側を暴く人たちも相当出てきた。今はもう、隠しきれません。

では、ワニの手法はもう通用しないのか。私は、半分は今も使えると見ています。

結末を先に言い、毎晩同じ時刻に見せ、読者に待ってもらう。この骨格は今も生きています。作者自身、2024年に続編の連載をXで始めました。その時は、出版社の提案がきっかけだったことが、連載開始の時点で報じられています。

通用しないのは、準備を伏せたまま、気持ちが一番高ぶった瞬間に売り出すほうです。同じSNS発の「ちいかわ」は、グッズやアニメ化の発表に歓迎の声が多かったと報じられています。売ること自体が嫌われるのではない。私はそう読んでいます。売り方が見えているかどうか、そして売り出す時刻です。

隠せないなら、見られて困らないものを先に作るしかない。

 

ブランドが先、集客は後

「マーケティングが好きなら、ああいう企画をやってみたくならないのか」とも聞かれました。

Key-Performanceは、もともとマーケティングの会社です。ただ、私たちがやってきたのは宣伝ではありません。ブランディングです。マーケティングの中にブランディングがあり、それぞれが自分のブランドを立てるにはどうしたらいいかを、ずっとやってきました。

起業茶屋®自体も、ブランディングで形になった場です。2016年に始めて、10年で300回(起業茶屋®とは)。

ブランドを作った上で集客。順番です。集客からいきなりは、できません。他より秀でているところが確認されたものを集客するから、人が集まる。確かめるのは、自分ではなくお客さまです。

書きながら気づきました。ワニの100日は、宣伝の期間に見えて、読者が毎日「これは面白い」と確かめ続けた100日でもありました。順番は合っていたのです。足りなかったのは、確かめ終えた人たちが余韻に浸る間でした。ブランドが先、集客は後。その「後」は、すぐ後ではありません。

スラムダンクは、その確認をずっと前に済ませていた作品だと私は見ています。だから、売り出しが歓迎されたのでしょう。

確認には時間がかかります。毎日描く。毎回、場を開く。面倒です。でも、面倒くさいことを引き受けられる人が、結局稼げるのだと思います。

 

憧れの一人を真似る前に、行き先を確かめる

では、確かめてもらえるものは、どう作るのか。マーケティングは、型の積み重ねから生まれます。何もないところでいきなり始めても、「何の話をしているんだろう」で終わってしまう。だから私は作戦会議の場で「この人みたいになりたい、という人はいますか」と聞きます。人がやっていることを多感に感じ取り、憧れを持つ。それがマーケティングの学び方だと思っています。

ただし、真似る前に確かめることがあります。そのマーケティングの行き着く先が、自分の求める成果と一致しているか。

たとえば、プロ奢ラレヤーさん。2016年ごろから「奢られる」という同じ枠で活動し、出会った人の話や日々の考察を、Twitterと有料noteで出し続けている方です。私の見立てでは、あの方の後ろにあるのはメディアのモデル(発信そのものを事業の中心に置く形)です。露出を増やし、自分のコンテンツを消費してもらう。そのために全てが動いているように、私には見えます。

自分の求める成果がコンテンツを消費してもらうことでないなら、同じ型をなぞっても、お金にならないか、思っていたものと違ってきます。その世界観を、いまの自分が本当に再現できるのか。見るのはそこからです。

人を集める手を打つ前に、1行だけ書いてみてください。

「私が他より秀でていると、誰かに確かめてもらえたのは__」
(例:同じお客さまがもう一度頼んでくれた/「助かった」と言われた)
まだ思い当たらなければ、「誰に確かめてもらいたいか」を書くところからで構いません。

ここが埋まった日から、集客は頼みごとではなく、知らせることに変わります。そして知らせる時刻は、相手の気持ちが落ち着いてからで間に合います。

あなたが最近、思わず乗っかったものは何ですか。

おまけ|「死ぬ」が「生きた」になった
会議のあいだ、私はずっとこの作品を「100日間生きたワニ」と呼んでいました。それは映画の題で、原作は「100日後に死ぬワニ」です。同じ物語を、死ぬ側からでなく、生きた側から呼び直している。題の付け替えにも、切り口があるのかもしれません。

「秀でていると確かめてもらえたもの」の空欄が埋まらないときは、無料45分で、一緒に確認することもできます。

ご意見・激励等ございましたら、気兼ねなくおっしゃってください!

ご覧いただきありがとうございました。
起業茶屋®の筧田がお送りしました。

 

参考資料

 

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筧田 聡
起業茶屋®を2016年から主催し、10年で300回。起業の相談を聞き続けてきた場で見えた判断の型を、惜しみなくお渡しします。起業前は最初の1件が売れるまで「起業の相方™」、起業後は売れ続けるまで「起業の作戦会議室™」で一緒に進めます。まずは無料45分から。こう見えて、阿見町議会議員。